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2026/1/20

SAP導入で「組織構造」を最速で整理・定義するフレームワーク(第1回:全体像)

SAP導入プロジェクトで最初につまずきがちな「組織構造」を、3つのレイヤーと3つの軸で整理するためのフレームワークの全体像を解説します。

SAPS/4HANASAP導入組織構造FICOSDMMPPIBP

はじめに

SAP導入プロジェクトに入った瞬間、初心者が最初に殴られる概念が「組織構造」です。会社コード、プラント、販売組織、管理領域……単語だけが飛び交い、頭の中では何も繋がらない。それにもかかわらず、設定・テスト・移行のあらゆる場面で「それ、どの組織単位?」と聞かれます。

ここで無理に暗記しようとすると、早い段階で限界が来ます。必要なのは暗記ではなく、毎回同じ手順で整理し、同じ成果物に落とす“型”です。

本シリーズは、その「型」を初心者向けに提供するものです。第1回は全体像(地図)を先に固定する回です。

想定スコープ:SD / MM / PP / IBP / FI(AP, AR) / CO を含む導入案件でも破綻しない構成を前提とします。

このシリーズで到達したいゴール

シリーズを読み終えたとき、読者が次のことをできる状態になることを目標とします。

  • 新しい案件でも、組織構造を短時間でキャッチアップできる
  • 組織要素を漏れなく列挙し、採用 / 保留 / 不採用を判断できる
  • 図と表を使い分け、読みやすい「組織構造定義」を作れる
  • 設定・テスト・移行で「それはどこで決まる?」に答えられる

結論:組織構造は「3レイヤー」で整理すべきである

組織構造を1枚の図に詰め込むと、ほぼ確実に破綻します。SAP導入で強い整理法は、次の3レイヤーに分けることです。

  • Layer1:樹形図(階層) —— 骨格(上位→下位の所属)
  • Layer2:関係図(ER的) —— 横のつながり(割当・参照・カーディナリティ)
  • Layer3:割当マトリクス(表) —— 例外・制約・判断基準・根拠
Layer1: 樹形図
階層 = 骨格
Layer2: 関係図
割当/参照 = 横のつながり
Layer3: 割当マトリクス
表 = 例外/制約/根拠
成果物:
組織構造定義
設定・テスト・移行で使える

この3レイヤーを分けるだけで、理解スピードと事故耐性が上がります。理由はシンプルです。

なぜ「3レイヤー」が効くのか

樹形図は「所属関係」に強い

樹形図は、上位→下位の所属を直感的に示せます。初心者が最初に掴むべき骨格は、まず樹形図で十分です。

例:会社コード → プラント → 保管場所(このあたりの単語が何であれ、「上に行くほど大きい単位」という感覚が掴めれば十分です)。

しかしSAPの地雷は「横断の割当」である

SAPの設計で揉めるのは、階層ではなく割当(Assignment)であることが多いです。たとえば次のようなものです。

  • 販売組織 ↔ 会社コード(請求・売上計上に直結)
  • 販売組織 ↔ プラント(出荷元に直結)
  • 管理領域 ↔ 会社コード(CO全体に直結)
  • 評価領域(会社単位かプラント単位か)など

これらは樹形図では表しにくいため、関係図(ER的)を使うべきです。

例外は図を殺すので、表に隔離すべきである

最後に残るのが「例外」と「運用ルール」です。

  • 原則は1:1だが、一部だけ例外
  • 特定製品だけ別出荷
  • 特定取引先だけ別請求

例外を図に入れると、図は一瞬で読めなくなります。だからこそ例外は割当マトリクス(表)に隔離し、図は読みやすく保つべきです。

初心者が迷子にならない「3つの軸」

スコープが広い案件(SD / MM / PP / IBP / FI / CO)ほど、最初に「軸」で整理すると理解が速くなります。

  • 法定・会計軸(FI/CO):決算、税、責任単位
  • モノの流れ軸(MM/PP/IBP):拠点、在庫、計画単位
  • 商流軸(SD):販売責任、請求、出荷

3つの軸

法定・会計軸
FI/CO
モノの流れ軸
MM/PP/IBP
商流軸
SD
💡 設計の肝は軸どうしの割当

初心者が最初にやるべきことは、自分の案件の「中心軸」を宣言することです。全部を同じ熱量で追うと、必ず散らかります。

このシリーズの手順(毎回これで回す)

このシリーズでは、以下の手順を固定し、毎回同じ型で組織構造を作ります。

Step0: スコープ宣言
中心軸を決める
Step1: 組織要素を
候補として全部出す
Step2: 採用/保留/不採用
を決める
Step3: 樹形図で
骨格を描く
Step4: 関係図で
割当を描く
Step5: 割当マトリクスで
例外/根拠を残す
✅ Done: 組織構造定義
設定・テスト・移行で使える

重要なのは、Step2(採用確定)より先に図を描かないことです。先に図を描くと、要素が増殖して破綻します。

成果物はこの3点セットである

最終的に出す成果物は、次の3つだけです。

  • 樹形図(階層):骨格を見せる
  • 関係図(ER的):割当を見せる
  • 割当マトリクス(表):例外と根拠を残す

この3つが揃うと、設計の会話が急に通じるようになります。初心者でも戦える状態になります。

Done基準(この状態なら「完成」である)

以下が満たせたら、組織構造は「完成」とみなしてよいでしょう。

  • [ ] スコープ(中心軸)が明文化されている
  • [ ] 採用する組織要素が確定している(採用 / 保留 / 不採用が付いている)
  • [ ] 樹形図で階層が一目でわかる
  • [ ] 関係図で割当がカーディナリティ付きでわかる(1:1 / 1:N / N:M)
  • [ ] 表に例外・制約・決定者・根拠が残っている
  • [ ] 実データ(コード値:会社コード / プラント / 販売組織など)を追記できる器がある

初心者がやりがちな失敗(先に回避する)

失敗1:図を1枚に詰め込み、誰も読めない

対策:階層(樹形)/割当(関係)/例外(表)を分離するべきです。

失敗2:割当が口頭で決まり、後で崩壊する

対策:表に「決定者・根拠」を残すべきです。

失敗3:モジュール観点が混ざって論点がぶれる

対策:Step0で中心軸を宣言するべきです(FI/CO、モノ、商流)。

次回(第2回):組織要素リストを作る(候補→採用に絞る)

次回は、組織要素をモジュール横断で列挙し、判断基準で採用を確定する回です。ここが固まると、樹形図・関係図が一気に描けるようになります。

  • 候補カタログ(FI / CO / SD / MM / PP / IBP)
  • 採用判断の基準(法定・在庫評価・統制・KPI責任)
  • 質問セット(最短で埋めるための聞き方)

おまけ:1分セルフチェック(読者の手が動く仕掛け)

この記事を読んだ直後に、次の2つだけ書ければ前進です。

  • 自分の案件の中心軸はどれか(FI/CO・モノ・商流)
  • 組織構造を「樹形図・関係図・表」に分ける理由を1行で言えるか

ここまでできれば、次回のStep2に進めます。

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